そうだ、僕らはくらしの プラットフォームを作りたかったんだ。

【スチーヴ友の会・対談】一田憲子×松浦弥太郎 一つの習慣が暮らしや人生を変えるかもしれない

【スチーヴ友の会・対談】一田憲子×松浦弥太郎 一つの習慣が暮らしや人生を変えるかもしれない

「そうか、僕らはくらしのプラットフォームを作りたかったんだ。」

これをコンセプトに、『くらしのきほん』と『箱庭』と『灯台もと暮らし』が中心となり、暮らしをテーマとしたメディアの記事が集まるサイトを目指し、2016年よりスタートした『スチーヴ』。

2017年2月に、新たに8メディアが加わることとなりサイトもリニューアル。4月14日にはスチーヴ読者の皆様をお招きした「スチーヴ友の会」を開催しました。

当日は『暮らしのおへそ』編集者の一田憲子さんをお招きし、『くらしのきほん』編集長の松浦弥太郎さんとの対談が実現。今回はその様子をお届けします。

仕事、家事、あるいは習慣。どれも慣れてしまえば、やがておもしろさを感じられなくなることも。でも、これらは毎日必ずすることですから、楽しくできたらいいですよね。「暮らし」をテーマに長く活動してきた二人の仕事論は、毎日をおもしろくするヒントとしても受け取れます。ぜひご参考になさってください。

一つ習慣を変えたら、暮らしも人生も変わるかもしれない

松浦弥太郎(以下、松浦) みなさん、こんばんは。松浦弥太郎です。今日はよろしくお願いします。一緒にお話をさせていただくのは編集者の一田憲子さんです、どうぞ拍手で。

一田憲子(以下、一田) 一田と申します。よろしくお願いします。

会場 (拍手)

松浦 座らせていただきます。

一田憲子さん、松浦弥太郎さん

松浦 僕は今『くらしのきほん』というウェブメディアを運営しています。

もともとは『暮しの手帖』という、昔から今も続いている雑誌をつくっていました。今は『くらしのきほん』を運営しながら紙媒体の編集をしたり、いろいろな企業さんとデジタルコンテンツ作りのお仕事をしたりと、ウェブ媒体と紙媒体を行ったり来たりしています。一田さんは『暮らしのおへそ』という定期刊行物をずっとつくり続けておられて。

一田 はい。暮らしの「おへそ」っていうのは、そのひとの「習慣」のことなんですね。

松浦 習慣に着目してメディアを始めようと思った時はどんな気持ちだったんですか?

一田 11年前、とってもパーソナルなことからこの雑誌は立ち上がっていて。

私がたまたま今住んでいる家に引っ越したんですけど。引越しをすると、ものすごくやる気モードになるじゃないですか。「人生を新しく始める」みたいな(笑)。

その頃は夜型生活だったので、明日からは早起きして家に帰ったら掃除をする生活を始めよう、とかいろいろ思ったわけです。

でも、翌日になってみると全然早起きができなかったんです。

たった一個の習慣を変えることでさえ、ものすごく難しいんだなということを私生活の中で実感して。

ひとは自分のいろんな習慣でできている。だったら、一つ習慣を変えたらそのひとの暮らしも人生も変わるかもしれないっていう仮説を立て、習慣からそのひとの生き方や暮らし方を語る本をつくりたいと思ったのが『暮らしのおへそ』をつくるきっかけでした。

一田憲子さん

松浦 今までで一番手応えというか、喜ばれたのはどんなおへそですか?

一田 手応えがあるのはおへその読者が好きな小林聡美さんとか、芸能人の方が出るとワッと人気がでます。

意外とすごく反響があったのが、主婦の方が朝30分だけ掃除をするという習慣。「30分でやめる。それ以上やらない」って決めているところは、無理しないようにということなんです。

松浦 素敵ですね。これは人気が出るだろうなと意図してつくっても、読者がその通りに反応してくれることって、ほぼないですよね。これは絶対にみんなに喜んでもらえるはずだとがんばってつくったものが、全然ダメだったこともたくさんあります。

愛情とは、想像すること

一田 そうですねぇ。松浦さんは少し元気がなかった頃の『暮しの手帖』を立て直されたじゃないですか。それができたのはなぜだったんですか?

松浦 当時はね、本当に試行錯誤する毎日でした。自分が持っている感覚や知識、経験を全て使って、思いつくことの中でこれだと思うことを全部やる。

でも全く成果が出ないんです。もちろん、ちょっと 『暮しの手帖』が良くなったかもなとか、素敵な感じになってきたなと思うんですけど。でも、それだけで雑誌は売れるものではない。

『暮らしのおへそ』は1,200円ですよね。『暮しの手帖』は900円くらい。結構高いんですよ。それを買ってもらうというのはすごく難しい。

内容に対して「いいね」って周りは言ってくれるんだけど、じゃあどれだけ買うひとがいるのかというとすごくシビア。こんなにがんばってこれだけやり尽くしてるのに、目標の部数には届かない状態が3年くらい続いたんですね。

その頃は本当に辛くて、何をやってもダメ。成果が出ないとやっぱり気持ちは折れるし、周りの編集者も疲れてきます。ある時、夜中まで仕事をした帰り道に、あぁもう疲れたなとコンビニにふらっと寄ったんです。

精神的にも弱っていて、悶々としている状況。明日もどう手を尽くしたらいいか考えなきゃならないから早く家に帰ればいい。

なのに、特定の何かを買おうと思ったわけじゃないけど、コンビニの中をウロウロしてる自分がいて。おかしいですよね。

一田 へーえ(笑)。

松浦 その時に、アイスクリームを買おうかな、あんぱんを買おうかなとか雑誌を買おうかなと考えているんですね。

うわぁ、いったい自分はなにをやっているんだろう? って思ったんです。冷静になって考えた時に、パッと思いついた答えみたいなものがあった。

松浦弥太郎さん

松浦 僕は何かにお金を使いたくてしょうがなくて、コンビニにいたんです。(心身ともに)ボロボロになっている自分を救ってくれるものを探している自分がいた。

このコンビニに、今の僕の心の状態を何か助けてくれるものがあるかもしれないと思って、ふらっと入ったんですよ。藁をもつかむような気持ちで買うんです、それはきっとプリンだろうって。

一田 (笑)。

松浦 家に帰って食べたら、ちょっと癒されるかもって。

一田 はっは(笑)。

一田憲子さん

松浦 僕はそれまで『暮しの手帖』をつくりながら、どうすればひとはお金を出してくれるんだろう、どうすれば本を読む時間をつくってくれるんだろう? と考えてきました。

ひとはなににお金と時間を使うのか、その答えが自分自身でわかったんですね。

嫌なことを忘れさせてくれたり、この疲れを一瞬でも癒してくれたりするとか、今の自分を助けてくれるものを目を皿のようにして探してる! と思ったんです、世の中のひとは。

じゃあ『暮しの手帖』のこの1ページは本当に読者を助けられるかな? と思って、自分がやってきたことを全部見返しました。

一田 ええ。

松浦 ダメだと思ったんですね。こんなんじゃ助けられないよって。だから売れないし、時間を使って読もうと思わない。

その1ページが本当にひとを助けることができるのか。本当にみんなが笑顔を浮かべることができるのか。ということを真剣に考えようって、『暮しの手帖』をつくっていた頃、編集部のみんなの前で話したんです。

作り手としての姿勢をみんなで共有して、雑誌をつくり直しました。

一田 その1ページがそのひとを助けるか助けないかの境はなんですか?

松浦 これはなかなか難しいんですけど、どれだけ自分たちが想像力を働かせて、仕事上の愛情不足を見つけられるかなんですね。

一田 読んでくれるひとへの。

松浦 そうです。僕らは一所懸命やるんですけど、人間っていうのは不完全だから、仕事でも家庭でも結局どこかに愛情不足の部分が残る。この部屋もどこかに愛情不足のところがあります。それを見つける。

一田 なるほど。

松浦 そうしたら写真やイラスト、レイアウト、タイトルの言葉遣いとか、全部が変わってくる。すぐに素晴らしいものはできないんだけど、ちょっとできたよねっていう一歩一歩の改善と進化で。それは読者も感じるんです。ということで、作り手としても雑誌としても少し元気が出てきてなんとか続けられました。

スチーヴ友の会

長く続ける秘訣は「ディティール」にある

松浦 そういう風に僕はつらい時期を乗り越えたんですけど、おそらく一田さんも『暮らしのおへそ』を11年間もやられていると大変な時ってあったと思います。それをどう乗り越えたのか。

一田 やっぱり(続けるのがつらい時はありました)ね、5〜6年目くらいの時。習慣って、だいたい似てくるんですよ。

みんな違うんだけど、なんとなく同じような感じになってきて。

何号つくっても「今度のひとの習慣は、このあいだの“早起きする”っていう習慣と同じだよね」となっちゃう。同じようなことしか聞けなくなった時に、これ以上はつくり続けられないかもしれないと思った時期が……

松浦 (暮らしの)おへそを?

一田 うん、あったんですよ、途中で。どうしようかなと思っておへそのアートディレクターに相談した時に「一田さんって、暮らしのディテールが好きでしょ?」って言われたんですね。それは当たり前の言葉なんだけど、すごくハッとした。

私は取材させていただくそのひとが何を成し遂げたかではなく、そのひとがお家に帰ってどういう暮らしをしていて、「そのご飯のつくり方を変えたらこういう風に楽しくなった」とか、「お掃除をこういうやり方でやっています」って教えてもらったら、はぁおもしろいと思って、真似するタイプ。

私って“暮らしのディテールが好きだったんだ”って、あらためて再認識したんですよ。

あのひとも早起きでこのひとも早起きかもしれないけども、このひとにとっての早起きは全然違う意味を持つはずだっていうふうに考えると、そのひとにとっての習慣を追求することが楽しくなってきたんです。

それで壁を乗り越えられて、おへそのバリエーションをつくるのが面白くなってきました。どんなひとでも習慣を持っているから、『暮らしのおへそ』をずっと続けてこれたんだと思います。

一田憲子さん、松浦弥太郎さん

松浦 定期刊行物の紙媒体で、淡々と11年続けていらっしゃるというのが素晴らしい。

一田 ずっと会社がやらせてくれているってありがたいです。

松浦 会社がやらせてくれるっていうのは、それだけ売れているから。ちゃんと実績があるので続いている。続いているというのは、読者がいて、読者がおへそを信頼して、毎号楽しみにしている。

一田 コアな読者は育っていると思います。そうなるまで10年かかりました。

松浦 えっ、“そうなる”というのは?

一田 暮らしの「おへそ」って言って、「習慣」だと通じるようになるまで(笑)。

いなくなったら困る存在になるには?

松浦 今日はもう一つ話したいと思っていたことがあります。

一田さんは最近『外の音、内の香』というウェブメディアを立ち上げていますし、僕も『くらしのきほん』を2年くらいやっています。ウェブメディアについて、考えたり感じたりしていることはありますか?

一田 まだ本当に立ち上げたばかりなので(笑)、ウェブのことはまだ何も語れない状態なんですけども。メディアって、そこでお金が生まれないと継続できないじゃないですか。

松浦 そうですね。

一田 継続するためにどうしらいいのかわからなくて立ち上げられなかったの、ずっと。だけど、お金の生み方がわかってからウェブメディアを始めるのでは、いつまで経ってもできないと思って立ち上げちゃったんですけど、どうやったら継続できますか?(笑)

会場 (笑)。

一田憲子さん

松浦 メディアを始めてから2年、3年という時に、なくなったら困るっていうものをつくるのが僕の中の一つの目標です。

例えばある日突然『くらしのきほん』がパッとなくなる。「あっ! なくなっちゃったね。でもそういうことってよくあるから違うのを探せばいいよね」って言われるようだと、それだけの話だけど。

ないと困る! っていうふうにみんなが思った時には、何かしらのいろんな方法で、ウェブメディアを運営していくために仕事が生まれると思います。

一田 どうやったら読者にとって、なくてはならないものになるんでしょうか。

松浦 これもさっきの話に戻るんだけど、日々いろんなひとの暮らしの一部を何かしらの方法で、ちょっと手伝うことができるようになったら、『くらしのきほん』はなくなったら困るなと思ってもらえると僕は信じています。

すでに今の世の中にとって、インターネットはなくてはならないものになっています。便利なことが次から次へとでてきますよね。

便利というのは、今まで僕らがちょっとがんばらなければやれなかったことが、がんばらなくて済むということです。どんどん便利が過ぎて、超えていって、そこまで便利じゃなくてもいいんじゃない? って思うことが結構あるんですよね。

だから逆に僕は、これからのインターネットは便利を追求しなくてもいいような気がしているんです。

例えば夜中の2時から朝の5時までは、全くサイトにアクセスできませんよというような。

一田 ええっ!(笑) すごいですね、それ。

松浦 みんな寝ようよ、ということです。だって夜中だもん。僕らの暮らしには朝があって昼があって夜があって、夜は寝てますよね。子どもの頃、夜中に目が覚めちゃってテレビをつけたらジーって。

一田 砂嵐が(笑)。

松浦 夜中でも昼間と同じようにテレビをつけたら番組がやっているということが、じつはおかしいと思います。だから『くらしのきほん』も夜中は「寝ています」と。

一田 それ、かわいいです。

松浦 これって便利すぎるんじゃない? ってことはやめちゃう。

今までできなかったことができるとか、できないことに答えるのが愛情ではありません。

それに答えるためにいろんな改善をするんじゃなくて、本来僕らが持っている生活とかライフスタイルの良かったことまでは壊さないためのメディア、サービスをつくりたい。

松浦弥太郎さん

松浦 24時間サイトを見れるのは便利だけど、24時間寝ずに、つねに何かやらなきゃいけないライフスタイルになっちゃうんじゃないかなという気がして。僕らがひととしてなんとなく丁度いいライフスタイルがあったはずです。

一田 なるほど。

松浦 そのメディアにひとの気配、自分と同じような生身の人間がつくってくれているということが感じられると、いなくなったら困る存在になると思います。

一田 楽しみにしてますよ、夜中にやっていないメディアを拝見するのを。

writer:
灯台もと暮らし
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