そうだ、僕らはくらしの プラットフォームを作りたかったんだ。

誰かの記憶に残るカフェに。松陰神社前「café Lotta(カフェロッタ)」のこれから

誰かの記憶に残るカフェに。松陰神社前「café Lotta(カフェロッタ)」のこれから

東京都世田谷区を走る、小さな電車・世田谷線に乗ると「松陰神社前」という駅にたどり着きます。

「灯台もと暮らし」では、この松陰神社前エリアに焦点を当て、特集をおこなってきました。

その中で取材させていただいた、「café Lotta(以下、カフェロッタ)」さん。オープンしてから16年、街のひとはもちろん日本全国にファンがおり、“ロッタちゃん”の愛称で愛されてきました。

cafe Lotta

 

ですが、カフェロッタの生みの親・桜井かおりさんは、人気絶頂の中、一度お店をクローズして大幅にお店の形態をリニューアルをするという一大決心をしました。「灯台もと暮らし」でその胸の内を取材させていただいたのは、2016年2月中旬のこと。

2017年2月20日に一旦お店を閉め、約1ヶ月の準備期間を経て3月25日にリニューアルオープンしたロッタちゃん。

新しい「はじまり」の道を歩み始めたロッタちゃんとかおりさんに、会いに行ってきました。

cafe Lotta

あっという間の1ヶ月。お客様に助けられています

── かおりさんは、お一人でお店を営む喫茶店の形態になり、リニューアルしてからの1ヶ月をどんなお気持ちで過ごされていたんですか。

桜井 かおり(以下、かおり) やっと最近、要領をつかめてきたかなって感じです。今までは他のスタッフにも手伝ってもらっていましたが、3月からはお店に立つのは、私だけ。だから、オーダーを受けたりお会計をしたり、お飲物を淹れたり、そういったことを全部一斉にやろうとしてしまっていました。

お客様一人ひとりとお話する時間を大切にしたいと思って喫茶店のスタイルにしたのに「あれ、私またバタバタ忙しく走り回ってる!」って思っちゃって。

でも、お客様がとても優しくて。私が一人でお店に立っていることをご存知だから、オーダーが遅くなってしまっても急かさずにいてくださったり、隣の席のお客様同士でおしゃべりしながら待ってくださっていたり。だから私も、一人ひとり順番におもてなししようと思えるようになりました。

白あんトースト
16年前のメニューとほぼ同じの「白あんトースト」も復活

── 今までのロッタちゃんは、オムライスが看板商品で食事をしに来られる方がほとんどだったかと思います。

かおり そうですね。今でも「オムライス、ありませんか?」っておっしゃるお客様もいらっしゃいます。1日に複数組、いらっしゃいますね。

── そういう方には、どうお伝えされているんですか……?

かおり オムライスを辞めて、ケーキやトーストなど喫茶店のメニューに変えたのは私ですから、ご用意できないのはこちらの責任です。「ごはんのメニューはないのかぁ」って、帰られるお客様もいらっしゃいます。

その様子を見て最初は「こんなにたくさんのお客様をガッカリさせしまった」って、しょんぼりしていました。

でも最近は、お食事したいと思って来たお客様かどうかがすぐ分かるようになってきて。自分なりにこだわって、今のロッタちゃんに生まれ変わったからお客様にも正直にお伝えするようにしているんです。

「お腹がいっぱいになるメニューがご用意できないのですが、もしよかったらまたいらっしゃってください」って。

そういうお客様にはお冷やを先に出さずにメニューをお渡しして、説明するようにしています。お冷やを飲んでしまったら、席を立ちにくくなっちゃうじゃない? ちなみにお冷やといっても、リニューアル後は白湯にしたんです。ずっと前から白湯にしたかったから……。

── ちょっとした距離感のつかみ方というか、かおりさん流の気遣いなんですね。

かおり そうですね。嬉しいことに、その日は帰っていただいたお客様でも、また別の日にお茶をしに来てくださるんですよ。2回目来てくださった時に、今度は満席だったら「座れないじゃーん!」って、またガッカリさせてしまうけれどね(笑)。

cafe Lotta

 

こだわりの内装。大好きなものに囲まれて働く日々

── お客様との関わり方も、やっぱり以前より変わっていっているんですね。

かおり 以前は本当に忙しすぎて、お会計の時くらいしかお客様とお話できませんでしたからね。

一人ですべてを行うと、つねに全部が自分に返って来ます。だから、お客様からの言葉も、私に対して直接言っていただいている言葉だという実感が以前よりも強くなりました。

嬉しさとか心地よさを感じられるし、今のやり方はすごく自分に合っているなと思います。

cafe Lotta

 

── 内装やメニューでリニューアルしたところはどこですか?

かおり いろいろありますが、一番はこの壁紙かなぁ。

私、パリが大好きなんです。自分でパリ旅行を企画しちゃうくらい、大好き。

パリにお気に入りのカフェがあって、そこの壁紙が素敵だなぁっていつも思っていたからロッタちゃんをリニューアルするタイミングで思い切ってそこの壁紙を購入して、張り替えました。

大好きな壁紙のある空間にいるから、毎日すごく気分がいいんです。

cafe Lotta

 

かおり あとは、食器。イギリスの「スージー・クーパー」っていう女性がデザインした陶器があるんだけど、それも大好きで。

じつはコツコツと、夫と一緒に衣装ダンス4つ分くらい集めていたほど。2人で「いつかスージー・クーパー美術館がしたいね」って話すくらい、持っていました(笑)。

でも、集めているだけで使わないのもちょっともったいないかなって思い始めて、ロッタちゃんのリニューアルをきっかけに、夫に使ってもいいか相談したんです。そうしたら、夫も大賛成で。

cafe Lottaの陶器
かおりさんお気に入りのスージー・クーパーの食器。お客さまの雰囲気に合わせたカップで飲み物を提供しているそう

── かおりさんの好きなものや夢が詰まった空間なんですね。

かおり 雰囲気も以前より、落ち着いた感じになったなと思います。

……そもそも変えようと思ったきっかけが、友人の一言だったんですよね。

「ロッタちゃんは16年間、ずっとかわいいままだけど、かおりさんは歳をとっていくじゃない? それがなんとなくアンバランスな気がする」って。私はそれを聞いてハッとしたんです。

「あ、本当だ。ずっとかわいいかわいいロッタちゃんではいられない」って。だから今は“ロッタちゃん”から、“ロッタさん”になったって感じかな(笑)。

一番大事にしたいことは、一人ひとりのお客様にていねいに接すること。忙しい日が続くと、お客様にたくさん来ていただけるのはすごく嬉しいんですが「待たせてばかりで迷惑かけちゃったな」とか、「今日、お客様は落ち着いて過ごせたのかな」とかずっと考えていました。

だから、これからはきちんとお客様と向き合いたいし、その時間を楽しみたいなと思っています。

パリの喫茶店に立つマダムを目指して

cafe Lotta

── 営業時間を短くして、メニューも減らして、規模を拡大するならまだしも縮小するというのは、とても勇気のいる決断だったと思います。

かおり 経営者としては、ダメダメな決断だと思います。でも、私は売り上げを上げることとか、お店を大きくすることよりも、お客様に目が届かなくなることが一番いやでした。だから、今の規模がすごくしっくりくる。

喫茶店が好きなのは、パリで素敵なカフェをたくさん見て来たのも影響しているかもしれません。パリの喫茶店って、マニュキュアをしてヒールを履いてお店に立っている、おしゃれなおばさまがいるんですよね。若い頃から、あんな風になりたいなぁってすごく憧れていたの。

── かおりさんも既に“ロッタママ”として、パリのマダムにかなり近い気がします。

かおり 今でも忙しくて走り回っちゃうから、まだまだね。

お店をリニューアルしようと思ったきっかけは、お客様にていねいに接したいという気持ちはもちろん、あとは体力的な限界も感じていました。このまま突っ走っても、体が先にダメになってお店を辞めなくちゃいけなくなるかもしれないって思って。今は、2階のフロアを無くして、1階の10席のみに減らしました。

数が減ったというのもあって、カウンターからお客様に「できたから取りに来てー」とか、冗談で言い合える距離感です。サービスする側、される側、じゃなくてみんなが心地よい場所になったらいいなと思うんですよ。記憶に残るカフェになったらいいなって。

cafe Lotta
愛され続けているカフェオレは、リニューアル後も健在。変わるものと変わらないもの、両方が交わるカフェロッタ

── これからの“ロッタさん”にますます艶が出るのが楽しみです。

お店を思い切り変えたから、私もあのパリのマダムに近づけるといいな。おしゃれして喫茶店に立っていても「かおりさんだからOK」って思ってもらえたら、素敵だなって。パリで見た喫茶店の雰囲気とか、街の様子とかがロッタには詰まっているから、私自身も、あの喫茶店のママみたいに変わっていきたいなって思います。

(写真/伊佐知美)
(文/立花実咲)

お話をうかがったひと

桜井 かおり
2001年にオープンした「café Lotta」のオーナー。パリと台湾が好き。夢は連載を持つこと。Instagram:@kaorilotta

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灯台もと暮らし
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