そうだ、僕らはくらしの プラットフォームを作りたかったんだ。

軽やかに、爽やかに。松陰神社前「CIDER(サイダー)」の暮らしに合わせてつくる革物

軽やかに、爽やかに。松陰神社前「CIDER(サイダー)」の暮らしに合わせてつくる革物

私たち「灯台もと暮らし」では現在、世田谷区の松陰神社前という駅を特集しています。

毎回、地域を絞って根を張り暮らす人々にスポットを当て、何故そこで暮らすことを選んだのか、日々の営みで何を大切にされているのかを伺っている私たち。

松陰神社前は良い意味で肩の力が抜けた町。ひとの確かな繋がりがあり、それを大切にしつつも、自分のペースは守っている方が多い印象です。

今回お邪魔したのは駅から徒歩30秒のところにある「松陰PLAT」の入居者の一人の「CIDER(サイダー)」さん。革製品をつくる職人の堤梨沙子さんの、アトリエ兼店舗がここ「CIDER」で、さらには堤さんのオリジナルブランドの名前でもあります。

cider

松陰神社前で暮らして5年。「CIDER」を立ち上げて、ちょうど1年ほど。

堤さん自身が町で暮らしながらつくる「CIDER」の革物は、「私が欲しくて使いたいものをベースにものづくりをする」という堤さんの思いが込められています。

堤梨沙子さん

松陰神社前は地面が近い町

── 「松陰PLAT」さんに出店された経緯を教えていただけますか?

堤 梨沙子(以下、堤) 以前、東京都台東区の蔵前というエリアにある、m+[エムピウ]という革製品のお店で働いていました。仕事自体はとっても楽しくて大好きだったんですけど、出産してから子どもが熱を出してしまったり、お迎えに行ったりして、お店に迷惑をかけてしまうなぁって感じるようになったんですね。

だんだん、このまま甘えて働いていていいのかなっていう気持ちになってきたんです。そのタイミングで、ちょうど「松陰PLAT」さんができることを、近くの「アリク」っていう立ち飲み屋さんで聞いて。もしかしたら、いい出会いがあるかもと思ってエムピウを辞めて「CIDER」を出店しました。

── 松陰神社前には蔵前にお勤めしていた時から住んでいたんですか?

 はい。エムピウで働きながらも、個人受注をして仕事をしていたんです。だから作業できる広いスペースが必要で、一軒家に引っ越そうと思って、近くの池尻大橋駅から松陰神社前に移りました。

── この町自体は、堤さんはどうですか、暮らしやすいですか?

 暮らしやすいですね。特に私と同世代の夫婦や家族も多い気がします。

松陰神社前

 それから池尻大橋で暮らしていた時よりも、ひとの距離感が近い気がしますね。最初に来た時は、三軒茶屋から乗り換えなくちゃいけないし、世田谷線に初めて乗って「東京にこんなところがあるんだ!」ってすごくびっくりしたし、不便かもしれないって思っていたんですけど。

── 確かに私も上京して数年経ちますが、大都会・東京のしかも世田谷区にまさか2両の電車が走っているとは知りませんでした。

 私が3人兄弟の真ん中で、賑やかな家庭で育ったので、ひとの距離が近い環境の方が落ち着くんですよね。エムピウがあった蔵前も下町だから落ち着くし、そういう意味で松陰神社前は昔ながらのお店も多いし、新しいお店をやっている若い方もたくさんいて、混ざっている感じが心地良いなと思います。

── 坂や階段も少ないし、商店街も大きすぎずまとまっているから、子ども連れでも過ごしやすそうです。

 そうですね。あと高い建物がない生活感のある町だからか、地面に近い感じがするんです。

── 休日やお仕事がない日も、松陰神社前あたりで過ごすことが多いですか?

 はい、そんなに遠くへは行かないですね。まだ1歳半の子どももいるので。

堤さん

 お休みの日は、だいたい行動パターンが決まっているんです。

朝起きたら若林公園っていう近所の公園に子どもを連れて行って、お昼は「松陰PLAT」に入っている「タビラコ」さんか、駅前の「STUDY」さんでご飯を食べて、午後は近くの図書館へ連れて行くっていう。この辺りで全部完結できちゃうので、すごくありがたいですよ。

おじいちゃんから教えてもらった革の世界

── 堤さんはママであり、職人でもあるということですよね。今どんなふうな働き方をされているのでしょうか?

 大きく3つ。1つ目は、OEMと言って、企業さんから依頼を受けて製品をつくって生産まで請け負うパターン。2つ目は、デザインからご提案させていただいて企業さんと商品までつくる流れ。そして3つ目が、完全に自分で使いたいものを自分で考えてつくること。この3つの軸で仕事をしています。

「CIDER」は、最後の3つ目ですね。

── 革の世界に最初に触れたのは、いつだったのでしょうか。

 いつだろう……私のおじいちゃんが、鞄の職人だったんですよ。だからおじいちゃんの作業場とかで遊んでいて、革製品自体はすごく身近な存在でした。本格的に革製品をつくり始めたのはエムピウに入る前で、おじいちゃんの元で週に何日か修行をしたり、鞄の職人養成学校のような場所に行き始めたりしてからですね。

── そうだったんですね!

 今もおじいちゃんから受け継いだ道具を使って、革製品をつくっていますよ。

お祖父様から受け継いだ、使い込まれた工具。革を丸くくりぬくのに使う
お祖父様から受け継いだ、使い込まれた工具。革を丸くくりぬくのに使う

── 長い間、革と向き合っている堤さんが感じる、革小物の魅力ってなんだと思いますか?

 そうですね……。私もずっと考えているんですけど、なかなか答えが出ないんですよね。

── うーん。まだ探している最中なんですね。

 革は、長く使えますし経年変化を楽しめるものですから、そこに魅力があるとは思います。自分の歳とともに革が育っていくし、つくり手によってすごく表情が変わるんですよ。職人の手の跡がついたりとか。それも良さの1つだと思います。

でも、それだけじゃない気がしていて……。経年変化を楽しむ以外の良さも絶対あるはずなんですけど、まだうまく言葉にできなくて。いつか見つけたいと思っています。

サイダーのようにシュワッと軽やかに

── 革製品というと、私はちょっとパキッとしているような力強い印象を受けるのですが、お店の名前が「CIDER」だと爽やかな印象で、そのギャップがとても良いなぁと思うんですけど、どうしてこの名前にされたんですか?

 独立するときに、あんまりいろんな意味を持たない名前にしたかったんですね。飲み物の、あのサイダーみたいに、ふわっとシュワッと軽くて爽やかな心意気でつくっていきたいなっていう気持ちを込めて、名づけました。

── すてきですね。意味をあまり込めたくないというのは、少し意外でした。

 コンセプトをがっちり決めてしまうと、私の場合は自分を縛ってしまう気がしたんです。

CIDER

 私がつくるものって、自分のライフスタイルに合わせてきっと変わっていくから。

今は小さい子どもがいるから、そういう女性向けの商品をつくりたいなっていう気持ちが大きいんですけど、しばらくしたらもっと違ったものをつくるようになるだろうし。私と似たようなライフスタイルの方に届けたいなと思いながら、つくっていますね。

小さい赤ちゃんがいるお母さんでも安心して使えるようにと、撥水加工が施した革のブレスレット。カラフルな色使いがかわいい
小さい赤ちゃんがいるお母さんでも安心して使えるようにと、撥水加工が施した革のブレスレット。カラフルな色使いがかわいい

── 固定された「CIDER」さんっぽさがあるというよりは、堤さんの生き方が反映されていることが、ブランド「CIDER」としての個性ということかもしれませんね。

 そうかもしれません。

ただ、ものづくりをする上では、デザイン面と機能面の両立は常に意識しています。

例えば私はバッグをつくることが多いんですが、使いやすいけどかわいくないものや、かわいいけど使いにくいものはつくりたくなくて。

女性向けのバッグは、見た目のデザインはすごく凝っているけど、ものを持ち運ぶするものとしては機能性がイマイチな商品って結構あるんです。だから機能とデザインのバランスには、すごく気を遣いますね。

── そのバランスの取り方って、何を基準にするんですか?

 自分ができること以上のことは、しないようにします。今はすごく情報が多いから、どういうデザインがいいとか流行はこうとか、いっぱい見られるんだけど、結局自分が好きなものってあんまり変わらないと思うんです。だから、自分が良いと思うものの根底を、見失わないようにするのは意識しています。

── 私もいつも荷物が多いので、ものがたくさんあって、間口が広く開いて、持ち手が長めの方が実際使いやすいし使い込んでいるなと思います。間口が少ししか開かなかったり、肩に背負うとき肘が当たったりすると「ちょっと!!」って思います。焦っている時とか(笑)。

 持ち手は短い方が、シルエットとしてはかわいいから、つくりたくなる気持ちは分かるんですよね。でも、実際使うとなるとちょっとしたストレスになったりしますね。機能性を大事にする姿勢は、エムピウの店主である村上さんから影響を受けた部分が大きいです。

CIDER

── お一人で仕事をすると、エムピウで働いていた頃と比べて悩みや技術の相談ができないし、大変ではないですか?

 大変なこと、やっぱり多いです。でも、「松陰PLAT」に入っている方々に話を聞いてもらうこともあって、すごく助けられています。エムピウの村上さんにも、今もアドバイスをいただくこともありますしね。

仕事をする中で、自分の力不足を実感して落ち込むこともあるけど「意外とできるじゃん」って思うこともある。

そういうのを繰り返しながらちょっとずつ、少しずつ。「CIDER」としても、新しい商品をつくっていきたいなって思っていますよ。

お話をうかがったひと

堤 梨沙子(つつみ りさこ)
2016年4月より「松陰PLAT」内に、自作の革製品ブランド「CIDER」のアトリエを構える。

(文・写真:立花実咲)

writer:
灯台もと暮らし
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